入学して間もなかった頃――
 まだ名前も知らないフォルテール科のクラスの誰かが、親睦会を行おうと言って、チ
ェナーコロに集まった。
 自然とアンサンブルをする流れになり、フォルテールは持ち回りで弾くことになった。
そうでない者は、隣室の楽器庫から適当に弾ける楽器を持ち寄ったり、歌を歌ったりし
よう、と。
 率先してフォルテールを弾く者が多い中、ずっと壁に背を付けて、歌ったりピアノを
弾いたりもしない男子生徒が一人だけいた。俺も誰かに勧められて一度弾いたが、そい
つは相変わらず窓の外を眺めながら、かといって帰ろうともしない。
 最後から何人目かで、ようやく近くにいた女生徒が話しかけると、彼は曖昧な笑みを
浮かべてようやくフォルテールの前に座った。自己紹介でそいつは、クリス・ヴェルテ
ィンと名乗った。
 クリスがフォルテールを弾き始めると同時に、楽器を弾く者の半分が手を止め、歌っ
ている者の半分が歌うのを止めた。変わらずに演奏を続けている奴らは、例えロバが弾
いていようと関係がなかったのかもしれない。
 俺も真面目に歌を歌っていたわけではなかったが、その時は呼吸を止めてその音に聞
き入っていた。

 そして、演奏を止めた者の内、大多数は眉をひそめ、残りのわずかな生徒が、驚いた
ように彼を見ていた。
 異質。
 思い浮かんだのは、そんな一つの言葉だけだった。

 一曲終わると、クリスは何事もなかったかのように一礼して、再び壁に背を付けた。
 チェナーコロはにわかにざわつき、何人かが彼の話をし始めたが、眉をひそめていた
奴らは一度だけ彼をにらみ付け、それからは無視した。
 演奏が再び始まるとクリスのことはほとんど忘れ去られたように、チェナーコロは音
楽に満たされていった。


 彼の音には、なにかがあった。
 無条件に称賛できる音ではない。ただ俺は、苛立ち、無性に腹立たしくなり、それで
もなお、クリスから目を離すことができなかった。
 得たいの知れない苛立ちが次第に治まってくると、今度は興味が沸いてくる。
 花瓶から花を一輪抜き取り、そっと彼の目の前に差し出した。

 

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